
ここ数年、クマ出没の影響がマラソン大会にまで及ぶケースが増えています。なかでも衝撃的だったのが、レース中にクマが目撃され、開催中の大会がその場で中止になるという事態。山奥のトレイルレースならまだしも、2000人規模のロードレースで起きたことは驚きでした。
クマ関連の大会中止・対策事例(2025年以降発表分)
まずは最近(2025年〜)報じられた、クマ出没・目撃情報が原因の大会中止・対策発表の主な事例を振り返ってみます。
✕ 中止|あづま荒川クロカン(福島県福島市)
今年11月に開催予定だった「あづま荒川クロスカントリー大会」が、コース周辺で熊の出没が懸念されるため中止すると発表。同大会は昨年(2025年)も同じ理由で中止しており、2年連続。大会存続が危ぶまれます。
✕ 中止|柏崎潮風マラソン(新潟県柏崎市)
約2,200人がエントリーするロードレースの開催中、コース上でクマ1頭の目撃情報が複数寄せられ、主催者が即日中止を決断しました。その後の調査でイノシシの可能性も指摘されましたが、安全最優先の判断として評価されています。
✕ 中止|千歳JAL国際マラソン(北海道千歳市)
北海道を代表する林道ランニング大会のひとつ、千歳JAL国際マラソン。毎年6月に約6,700人が出走するこの大会が、クマを理由に史上初めて中止を決定しました。あの大会が!?と驚いた方も多いのではないでしょうか。
実行委員会は「これまでと違う次元に入った」と判断し、今年の大会を中止に。2027年の再開を目指すとしています。対策として、クマの臭いを察知して追い払う「ベアドッグ」の導入やカメラ監視なども検討。林道コースを持つ大会特有の難しさが浮き彫りになった事例です。
✕ 中止|武田の杜トレラン(山梨県甲府市)
定員900名、武田神社を起点に甲府盆地を見渡しながら走る30kmのトレイルレース。クマの出没と被害が相次ぐ山梨県内の状況を受けての中止判断でした。石川弘樹氏プロデュースの人気レースだけに、参加者からは落胆の声も多く上がりました。この年の山梨では、クマを理由に年末に予定されていたトレイルレースが複数中止になっています。
✕ 中止|風越山トレイルマラソン(長野県飯田市)
全国から約400名がエントリーしていたトレイルレースが、クマの目撃情報を受けて開催直前に中止に。長距離トレイルは選手が単独になる局面があるため、主催者が苦渋の決断を下しました。
! 対策発表|いびがわマラソン(岐阜県揖斐川町)
ナゴヤランナーにはお馴染みのいびがわ。中止ではないものの、大会実行委員会がクマ対策を発表。コース付近でのクマ目撃情報を受け、参加者・スタッフへの注意喚起が実施されました。大会そのものは予定どおり開催されましたが、このクラスの規模の大会でクマ対策が公式発表されるようになったこと自体、時代の変化を感じさせます。
! コース変更プラン公表|カムロトレイルラン(山形県)
山形県の神室山系を舞台にしたトレイルレース。実行委員会が大会前にクマ目撃時のコース変更プランを公式サイトで事前公開しました。「メイン会場でクマが出没した場合はその部門を中止」「特定区間での目撃情報があれば迂回コースに切り替え」など、段階的な対応フローを明示。中止か継続かの二択ではなく、状況に応じた柔軟な対応の仕組みを事前に示した点は、他大会のモデルケースになり得ます。
ちなみに、これらのケース以外にも、新潟県新発田市の「真木山リレーマラソン」(2010年)など、クマ出没を受けてマラソン大会が中止になった事例はこれまで全国各地で起きています。決して最近始まった話ではなく、ここ数年で頻度が増してきているというのが実情です。
なんとなく他人事と感じているナゴヤランナーも多いかもしれません。しかし愛知県内にも、クマ(ツキノワグマ)は確実に生息しています。

愛知県内のクマ目撃が多い主な地域として以下が挙げられます。
- 豊田市(猿投山周辺・小原地区・足助地区など)
- 瀬戸市(猿投山北西部・定光寺周辺)
- 新城市
- 東栄町
- 設楽町
- 豊根村
- 岡崎市(山間部)
県の発表によると、2025年度のドングリの実りは全県平均で「凶作」(2年連続)。ドングリが少ない年は、クマがエサを求めて人里へ下りてくる傾向があります。そのため例年以上に出没頻度が高まる可能性があると、県も注意を呼びかけてきました。
名古屋からほど近い猿投山では、2025年に複数回のツキノワグマ(らしき動物)目撃情報が報告されています。猿投山はトレランやハイキングで人気のコースですが、「今年も猿投で目撃した」という情報を見かけるたびに、決して遠い話ではないと実感します。
山を走る前に確認したい、クマ対策の基本
トレイル、林道、山裾のロード・・・とにかく山に近いエリアを走るランナーに向けて、クマ対策の基本をまとめます。「知ってるよ」という内容も含まれるかもしれませんが、知っているかどうかより、実際にやっているかどうかが肝心です。以下、走る前・走っているときにやるべきことをまとめました。
① 出没情報を確認する
愛知県の公式サイト(自然環境課)では「ツキノワグマ確認情報」が随時更新されています。豊田市など各自治体も独自に情報を公開しているので、走るエリアの最新情報を必ずチェックしましょう。
② 熊鈴は必携
走行中は自分の存在をクマに知らせることが大切です。一人旅になるロングコースでは特に重要。鈴の音が絶えず鳴っている状態を意識しましょう。
③ 単独走はなるべく避ける
可能であれば複数人で走るのが理想。単独の場合は話し声や鈴音で存在を積極的にアピールしながら進みましょう。
④ 薄暗い時間帯を避ける
クマは早朝(4〜7時頃)と夕方(17〜21時頃)に活発に行動します。夜明け前スタートや日没後のナイトランは、クマとの遭遇リスクという観点からも見直しを。
⑤ 見通しの悪い場所はとくに要注意
カーブの多い林道、背の高い草が茂る区間、沢沿いの薄暗いエリアは、クマに気づかず接近するリスクが高い場所です。スピードを落とし、音で存在を知らせながら通過しましょう。
⑥ ヘッドフォン・イヤフォンは外す
山中での音楽聴取は周囲の音を遮断してしまいます。クマの鳴き声、枝を踏む音、近くにいる気配など、耳からの情報は命綱のひとつです。
万が一クマを見かけてしまったら・・・
⑦ 背中を見せて走って逃げるのはNG
クマの捕食本能を刺激します。目を合わせながら、ゆっくりと後ずさりして距離をとりましょう。
⑧ 大声を出したり騒いだりしない
クマを興奮させる可能性があります。冷静に、ゆっくり離れることが最優先。
⑨ 子グマを見たらすぐ引き返す
近くに必ず親グマがいます。子グマを守ろうとする母グマは攻撃的になりやすく、とくに危険な状況です。迷わずその場を離れましょう。
⑩ 目撃したら必ず通報を
市役所や警察への情報共有が、地域全体の安全対策につながります。「大げさかな」と思わず、目撃日時・場所・頭数・逃げた方向を伝えましょう。
大会中止はやむを得ない。ただ、事前周知は課題
柏崎のケースのように、レース中に突然中止になるのは参加者としては本当に辛い体験です。交通手段や宿の手配を含めると、県外からの参加者への影響はとくに大きいのではないでしょうか。
安全面での判断として大会の中止・中断は当然あり得ることですし、むしろ迅速な判断は評価されるべきです。一方で、こうしたリスクが事前に把握できていれば・・・たとえばエントリー時や直前に「コース付近でクマの目撃情報あり。中止の可能性もあります」と伝えられていれば、参加者も心構えができます。
いびがわマラソンが前回「クマ対策について」を公式発表したのは、そういった意味で参加者への誠実な情報提供として評価できます。大会そのものが続く限り、主催者と参加者が情報を共有しながら安全に楽しめる仕組みづくりが、秋からのの本格的なレースシーズンに求められていくのでしょう。
※本記事に掲載した目撃情報・大会情報は、各公式発表・報道をもとにまとめたものです。最新の出没情報は愛知県自然環境課および各市町村の公式サイトでご確認ください。