滋賀と岐阜の県境にそびえる伊吹山。この山の頂をめざしてひたすら駆け上がる山岳レース、「夢高原かっとび伊吹2007」を突撃体験取材してきた。
伊吹山は「日本の百名山」にも名を連ねる名山で、標高は1377メートル。冬はスキー、春夏は一面のお花畑を目当てに多くの観光客が訪れる。そのふもとにある「伊吹薬草の里 文化センター」が、かっとび伊吹のスタート地点。会場にはランニンググッズショップや食べ物屋台などが立ち並び、にぎやかな雰囲気。
参加者は全部門あわせて1200名ほど。このうち山頂をめざすアタックコースには900名程度エントリーしているようだ。アタックコースの距離は10キロ。しかし平地の10キロとはその中身がまったく異なる。主催者側もしきりに「かっとび伊吹をナメないでください!」と連呼していた。その意味は、すぐに身をもって思い知らされることになる・・・。
ランナーのウェアリングは普通にランシャツ・ランパンの人もいれば、ロングタイツにショートパンツを合わせたトレイルランスタイルもちらほら。オシャレなウェアに身を包んだ女性ランナーの姿も目立つ。おおむね通常のロードレースとあまり変わらない印象。
ただ、ほとんどの人が飲料水ボトルを装備したウェストバッグを腰に巻いている点が山岳マラソンらしいといえばらしい風景かも(事前に主催者側から飲料水の携行がアナウンスされていた)。ハイドレーションパック入りのバックパックを背負った“重装備”のランナーも2、3人見かけた。
9:40分、号砲とともにスタート。まずは伊吹山を見上げながら一般道を走る。今からあの山のてっぺんまで駆け上がると考えただけで思わず吐き気が・・・。
やがて10分たらずで伊吹登山口に達し、アスファルトの林道へ。勾配がぐっと急になるとともに、心拍数も急上昇。それでもんなんとか走ることはできた。この辺りはまだ標高が低いため、暑くて汗がとめどなく流れ出てくる。つづら折りの林道を抜けると、いよいよゲレンデに突入。
スキ-場だけに勾配のキツさはさらに激しさを増し、とても走れるような状況ではなくなる。道が狭いわけではないので前のランナーを抜こうと思えば抜けるが、みんな「ハアハア」と荒い呼吸を繰り返しながら前について歩くだけだ。
レースというより、単なる集団登山?
やがて3合目に到達。久しぶりの平らな土地にホッとひと息。少しでも時間短縮を図ろうと、みんなここぞとばかりに走る。が、すぐに上り地獄が。足場もますます悪くなってくる。しかも一般登山者やすでにゴールして下山してくるランナーやらでコース上は大混雑。
何時間も走り(歩き)続けているわけではないので筋肉の疲労は感じないものの、心肺がヒーヒーと悲鳴をあげている。通常のロードレースでは、ここまで心拍数が上がる局面はほとんどないだろう。しかも走っているのではなく、歩いているのにこれだけ苦しいとは。景色やお花を楽しんでいる余裕なんて一切ない。
9合目を過ぎてしばらく進むと、係員の人が「あと300メートル」と教えてくれた。「せめて走ってゴール」したいと思い、やや勾配も緩くなったのを見計らってラストスパート敢行。よれよれになりながらもなんとか完走を果たすことができた。
山頂はゴールしたランナーと一般の登山客でごったがえしていた。スポーツドリンクを飲みながら、しばし景色を楽しむ。
ゆっくり景色を眺めながらの下山。というか、上り優先のためなかなか前に進まない。
とにかく「キツい」という印象が強い「かっとび伊吹」だが、翌日になっても不思議と筋肉へのダメージは少なかった。キツさのほとんどがレース中の「心肺の苦しさ」であり、平地のフルマラソンにおける「筋肉中のグリコーゲンを使い果たした後のキツさ」とは質が違うように感じた。
今回はじめて上り一辺倒タイプの山岳マラソンに出場してわかったのは、「富士登山競走」の完走者はスゴいということだ。単純に伊吹山×3倍だから、想像するだに胃液がこみ上げてきそう。
<大会講評>
マラソン大会にしては食べ物の屋台が豊富。ビールも販売している。主会場の「伊吹薬草の里 文化センター」には薬草風呂あり。3合目にも風呂があるが、当日は閉鎖していた。コースはスタートしてから2キロ弱が一般道、登山口からしばらくはつづら折りの林道(アスファルト)、さらにはゲレンデと続く。標高が高くなるにつれて、砂地、赤土、岩場など、バリエーションに富んだ登山道が現れる。とくにゲレンデでは下草を刈った切り口が鋭い場合もあるので、底の薄いレーサータイプや靴底の一部がメッシュになっているシューズは避けた方が無難。踏み抜きの危険があるから。
給水ポイントは複数あり、水とスポーツドリンクが用意されている。しかし夏場のレースでもあるのでドリンクは携行したい。記録証はもらえるにはもらえるが、タイムと順位を自分で書き込まなければならないため、ちょっぴりむなしい。全体的にはとても好感の持てる大会。ホスピタリティの質も高い。参加者の年齢層も高い。
つぎのマラソン大会突撃体験取材は、9月末に行われる「三河高原トレイルランニングレース」。山頂をめざしてひたすら上るかっとび伊吹とは異なり、上りあり下りありの起伏に富んだ森林コース。30キロとやや長丁場だが、自然を楽しみながら走れそう。