取材時に「では、始めます」が禁句な理由。

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取材時にその様子を録音することは珍しくありませんが、相手によって注意すべき点も。なぜなら取材現場では、それまで気さくに世間話をしていた取材対象者が、録音のスイッチを押した途端に押し黙り、別人と化してしまうことがままあるからです。

それは「インタビューを受ける」という緊張ゆえであることはいうまでもありません。取材に慣れた方なら気を使う必要はないけれど、私はできるかぎり「インタビュー」とか「取材」という言葉は避け、「打ち合わせ」「雑談」という単語に置き換えます。

「では、取材始めます」的な「空気の切り替え」もNG。切り替えた途端、無口になる方が多いからです。自然な流れで「気づいたらインタビューが終了していた」なんてのが理想ですね。

ICレコーダーの置き方、スイッチの入れ方にも気を使います。さりげなく机に置き、さりげなくスイッチを押す。場合によっては部屋に入る前から録音ボタンを押しておくこともあります。

雑誌などで対談記事をよく目にすると思いますが、4〜5人以上の座談会を取材する場合はICレコーダーの他にビデオカメラも回します。音声(ICレコーダー)のみだと誰が何を話しているのか分からなくなってしまうから。これがまたやっかいで、映像も録られるとなると、人は緊張の度合いが倍加してしまうのです。

あるメーカーの会社案内に、若手社員の座談会を掲載することになりました。取材当日。会議室に入ると5名の男女社員の方々が楽しそうに雑談しています。

さっそくビデオカメラを三脚にセットしていると、「映像も録るんですか?」と驚いた様子で訊ねてきます。「はい。でも、メモ代わりですからまったく意識しなくて結構です」と念押し。

しかしいざ座談会が始まると、さっきまでのわきあいあいとした雰囲気も消え、みんな無口に。カメラを意識していることは明らかです。そこで思いきってビデオのスイッチをOFFに。すると、ビデオで撮られているという呪縛から解き放たれ、みなさんリラックスしてお話しいただけました。

じつはビデオカメラのスイッチは切っておらず、ずっと回しっぱななし。OFFにするフリをして皆さんを騙すことになってしまいましたが、場の空気を変えることにはまんまと成功したのです。