今年も早いもので10月。いよいよロードレースシーズンが本格的に始まります。マラソン大会といえば、規模が大きくなるほど「トイレ」問題は切実。スタート前やレース中にトイレが混雑して焦った、なんて経験は誰にもあるでしょう。ところで、大規模マラソン大会では、いったいどれほどの量のオシッコが処理されるか考えたことありますか?
「マラソンとトイレ考」としてユニークな考察を披露してくれたのは、名古屋大学病院泌尿器科講師の吉野 能先生。
たとえばマラソンフェスティバルナゴヤ・愛知の場合、前回大会はドーム周辺に320基の仮設トイレが設置されました。 『あくまでも概算』という前提で、『女性フル15000人、男女ハーフ+10Kで13000人、計28000人のランナーが皆スタート前に1回オシッコに行ったとして、膀胱の大きさ(1回排尿量)を250mlと仮定すると、28000人X250ml=7000000ml、約7トンにもなる』んだそうです。
マラソン大会で流されるオシッコの量など今まで考えもしませんでしたが、スタート前だけで約7トンとは驚きです。
『実際にはオシッコ以上の水を流すわけで、この数倍の汚水が発生(タンク内に)することになります。これに1割の人がうんちもしたとするとオシッコ+うんちで500gとして1.4トンの堆肥が発生します』 うーん、なんだかすごいことになってきました。さらに吉野先生の考察はトイレットペーパーにおよびます。
『1回1メートルのトイレットペッパーを消費したとすると、その延長は約18㎞、コース上ではドームから堀田を折り返し高岳まで来ることになります』 なんと18km!あの長い環状線を延々とコロコロ転がるトイレットペーパーが目に浮かぶようです。
『トイレを設置したり汚物を片付けたりと、“出たもの”を処理する裏方さんあってのものなんですね。そう考えると感謝の気持ちがわいてきませんか?』 なるほど。こうしたスタッフの努力があってこそ成り立っているのがマラソン大会。出ちゃうものは仕方が無いので、スタッフの余計な仕事を増やさないためにもせめてトイレは汚さずきれいに使用したいものです。
さてマラソン大会のトイレといえば、とくに女性ランナーの中には「トイレにいきたくなるから」という理由でレース前・レース中の給水を怠る人もいるようです。この危険性についても吉野先生に訊いてみました。
『基本的には口渇を感じた時には脱水が始まっているため、それから補給しても熱中症は予防できないとされています』 『軽度の自律神経症状(悪心、嘔吐)ならまだしも、けいれんを起こして転倒すれば頭部打撲など生命に危険を及ぼすケガも負いかねません』 内科的に危険なのは当然として、大ケガを負うリスクも高いとは、言われてみれば納得です。さらに、夏ではないからといって安心はできないとも。
『真夏のレース以外でも熱中症は起こりますし、マラソンでの水分抑制は百害あって一利なしと考えるべきでしょう。やはり健康あってのマラソン、目先のタイムにとらわれてトイレをスキップするより、十分補給して必要あれば早めにトイレに行き、長い目でみて健康的に楽しくマラソンを楽しみたいものです』
なるほど。目先のタイムにこだわるあまりトイレや給水を我慢するのは、長い目で見てけっしてメリットにならないどころか、時として重大な危険を伴うということですね。
ちなみにマラソンフェスティバルでは吉野先生はじめ、複数のドクターランナー(医療支援走)が出走します。選手の安全に対するフォロー体制は整っていますが、やはり参加される皆さん自身が万全の体調・準備を整えておくことがもっとも重要かもしれません。